今日のシェイクスピアは『ジュリアス・シーザー』


たしかにブルータスは高潔の士であったかも知れない。そして、シーザー暗殺も高潔な行為だったかも知れない。しかし、高邁な目的にもかかわらず、フィリパイの戦いが終わったあと、ローマには、シーザーが思いもしなかったような専制が敷かれることになる。何という皮肉だろうか。
この劇はいたるところにそうした皮肉が埋め込まれている。どんなに信念を貫いて生きていようと、結局は皮肉な運命の笑いものにされるしかない、それが歴史というものだ。イギリスの歴史劇を書き上げたシェイクスピアに目には、そんな哀れな人間模様がますますはっきりと見えていたはずだ。
暗殺直後、キャシアスが誇らしげに語る予言は奥行きが深く、観客は、たった今、シーザーの死を体験したかのような錯覚に陥る。次の台詞をじっくり読んで欲しい。


CASSIUS.     How many ages hence
Shall this our lofty scene be acted over
In states unborn and accents yet unknown!
(どんなに時代が過ぎようと、我らの行なったこの崇高な場面は、まだ生まれていない国で、まだ知られざることばで、繰り返し演ぜられることであろう。)

この予言のことばを聞くと不思議な感じがする。というのは、これを聞いているあいだ私たちのこころはローマ時代にあって、たった今シーザー暗殺を目撃し、この予言を聞いているような錯覚に陥るからだ。その次の瞬間、自分が日本にいて、キャシアスが日本語でしゃべっていることに気づき、なるほど、たしかにキャシアスの予言どおり、こうして日本語という当時のローマには知られていなかったことばで「崇高な場面」が上演されているな、と感心してしまう。しかし、ちょっと考えてみれば分かるとおり、これはローマ時代ではなく、エリザベス朝に作られたものであり、上演しようとしている側から書かれているものなのだから、この予言は当たって当たり前なのだ。しかし、それは理屈だ。観客の心理はそんな風に理詰めで動くわけではない。そういう時間軸の移動が実におもしろい。



この劇最大の見せ場は、シーザー暗殺の大義を語るブルータスの演説と、シーザー追悼を隠れ蓑に、ブルータスをおとしめようと図るアントニーの演説だろう。
先に壇上に立ったブルータスは散文で大衆に語りかける。ローマ市民は一旦はブルータスの大義を受け入れる。だが、次に壇上に登ったアントニーは、理路整然と語ったブルータスとは正反対に、リズミカルな韻文と巧みなことばの魔術で群衆の感情に訴えかける戦術をとり、ブルータスを反逆者に仕立て上げる。

ANTONY. You all did see that on the Lupercal
I thrice presented him a kingly crown,
Which he did thrice refuse. Was this ambition?
Yet Brutus says he was ambitious,
And sure he is an honourable man.
(みんなも見ていたろう、ルペルカリアの祭日に、私は三度シーザーに王冠を捧げ、シーザーは三度王冠を退けた。これが野心だろうか?しかし、ブルータスはシーザーが野心を抱いたと言う。そして、もちろん、ブルータスは立派な人間だ。)

策士アントニーのことばの魔術が聞き始めるところだ。彼は「ブルータスは立派な人間だ」を何度も繰り返す。はじめはことばどおりに受けとっていた群衆も、だんだん、裏の意味に気づいてゆく。最近の演出では煽動者を客席に配置し、観客が群衆となって煽動者といっしょに叫んだりする。群集心理が沸き立つ場面だ。



持病の発作で失神したシーザーが息を吹き返した模様を、キャスカが仲間に報告しているとき、シセロはなんと言ったのかと聞かれ、ギリシア語だったので分からなかった、と答えるくだりがあるが、そのときに使ったGreek to meという表現が「ちんぷんかんぷんで理解できない」という意味の一般的な表現として使われるようになった。今では辞書にも載っている。





長くなるのでつづきは⇒シェイクスピア全作品解説
覚えておきたいシェイクスピアのことば⇒ジャンル別シェイクスピアの名台詞集



猫め!
最近、スズメの餌台が時々倒れている
落ちた衝撃で皿が割れたこともある
どうやら猫の仕業らしい

「猫の皿」!?
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