万にひとつ
神様、神様、離ればなれの朋が出会うことはめったにないことです。でも、山だって地震で動いてひとつになるかも知れないでしょう。(シェイクスピア『お気に召すまま』)
ひとが出会うのはそんな偶然のいたずらなのだろう。おかげで楽しいひとときがすごせた。
今日は朝から何もしたくなかった。起きたのはまず3時、ちと早すぎる。ごそごそやっているうちに二度寝をして、うつらうつらあまり深くない眠りの浅瀬で川底の石にからだがこすれていい眠りではなかった。起きたら9時だ。
からだが重い。こころも重い。もしかして引越疲れがどっと出たか・・・。
そこで自分に飴玉をしゃぶらせようと、CDもMDもカセットテープも聴けて、その上、SDカードに落とせるミニコンポを買いに出掛けた。
店員に訊くがあまり詳しくはなさそうで頼りない。ダメ元で買ってしまった。
そして、結果はダメだった。SDに落とせはするのだが、パソコンでは読めない形式で保存されている。メーカーもいろいろ悪知恵をしぼって私たちから巻き上げようと画策している。でも、三つのメディアで音楽が楽しめるだけでも楽しい。メーカーのそそのかしに乗っかってもう少しお金を出せば保存も楽になる。ニール・セダカのSweet Sixteenなんぞを聴いているうちに気分も高揚して来たので、めでたし、としよう。
そうこうするうちにネットボールの時間となり、あわてて体育館へ行く。
でも、何が私を引寄せたのだろうか。私はいつの間にか体育館を離れ、うろうろ(まるで不審者のように)さほど広くない大学構内を歩いていた。そして、気付いてみたら、セイタカアワダチソウほど高くなった研究棟の敷居をまたいでいた。二階への階段を包む夜7時の薄暗がりは、ここを昇ってはいけないと私に語りかけていた。
だから、私は昇ったのだ。いらっしゃい、と招かれたら立ち去っていたろう。
天の邪鬼。
誰もいないと確信してノックすると少しだけ遅れて中から声がした。しかも、中にいたのは研究室の住人だけではなかった。
かくして万にひとつの偶然を楽しんだ。