セロ弾きのゴーシュ

気になることばがある。それは

トォテテ テテテイ
だ。
もしこの童話の交響曲第6番というのがベートーヴェンのものだとしたら、セロがうまく弾けないのはどこなのだろう?
冬の寒い夜である。ひまに任せて考えてみた。
手元にスコアがないため、無料ダウンロードできるPDFのスコアで調べる。手掛りは楽器の編成である(金星音楽団がベートーヴェンの指定どおりの楽器を使ったとしてではあるが)。
楽章の特定は比較的容易である。というのもトランペットは第1、第2楽章には登場しないので、調べるのはあとの三楽章である。

第3楽章の農民の踊りはいかにも賢治が好きそうであるし、またゴーシュが遅れそうでもあるけれど
トォテテ テテテイ
というリズムが見つからない。

リズムと同時に
トォテテ
というのは音程の変化を示している気がする。また
テイ
というのは他の音より早いリズムを感じさせる。

そういう仮定のもとに調べると、

あった!

第5楽章の37小節目、ヴィオラとユニゾン
ドララ(トリル)ドシソミ
と弾くところがある。全体は8分音符だが、最後のソミは16分音符である。
何となくここではないかと思うのだがどうだろうか?

とはいうものの、詳しく調べてみると分るのだが、田園交響曲はのどかな雰囲気にもかかわらず、なかなかむずかしいのだ。ここで引っ掛かるような腕前だったらその前に第4楽章(嵐)の演奏者泣かせのとんでもなく素早いパッセージなど演奏不能であろう。
しかし、そんなことを言っては元も子もない。そもそも、賢治が具体的なフレーズを念頭においてこの童話を書いたかどうか……。

虚構を現実に引きずり下ろしていけないのだ。
ま、寒い夜のなぐさみとして赦してもらおう。