一陽、初訪問


もう10年くらいになるだろうか。ずっと気にはなっていたが立ち寄る機会がなかった赤城山中腹、国道353号沿いにある「ラーメンハウス一陽」で醤油ラーメンを食べる。

そこで感じたのはラーメンは食べ物の味だけで食べるわけではないのだということだ。いや、ラーメンに限ったことではないだろうが、特にラーメンや蕎麦はほかの食べ物に比べ店の空気、店主の人柄が味を左右する。

その日はもう春の陽気が辺り一面にひろがっていたせいもあり、店に入った瞬間、一陽来復を実感した。店主自ら丸太で作ったというカウンターとテーブル一つだけの小さな店内には懐かしい空気があふれ、店を守る老夫婦のゆったりとした時間が私の中に流れ始めた。

野菜の甘さが際だつ一陽のラーメンは外連味のない単純明快な家庭の味を楽しませてくれる。食べることは楽しいことなのだと教えてくれた。宝来軒の常連客はあそこへラーメンを食べに行く。作り手のことや店員のことは念頭にない。だが、一陽の常連客は何よりもこの店に身を置きに行くのだ。もちろん、そんなことはこれっぽっちも意識しないで。