思案のしどころ

ある程度納得の行くものが焼けた。悦ばしいかぎりだが、手放しでは喜べない。とにかく同じものが何度も焼けて初めて出発点に立てるのだから。

また、いい色が出ると欲も出る。あの黄土を来待石に替えたらどうだろう、益子赤粉だったらどうだろう・・・妄想がふつふつと湧く。

芝居や音楽はその場で演出や指揮を替えた効果が確かめられるが、やきものは息が長い。窯を持っていたとしても、まず器を引いて、乾かして、施釉して、焼いて、と最短でも2週間は掛かる。もどかしい。せっかちな私には限りなくもどかしい。

人間というものは実にお調子者だ。いいものが焼ければ小躍りし、まるで梅雨空が軽やかに晴れ渡ったかのような上機嫌になる。


there's never been quite such a fool who could fail
pulling all the sky over him with one smile
(e.e.cummgings, 'may my heart always be open to little')
この世始まって以来の愚かものだって、微笑みひとつもらえば空いっぱいの上天気になるものなのさ
だが、扉を開けた瞬間にひどい光景が目にはいると足取り重く家に帰る。しばらくは何もやる気が起こらない。何とかワトソンのことばを思い出したり

The way to succeed is to double your error rate. (Thomas J. Watson)
「そんなにうまく行くわけがないだろう、先輩はみんな同じ思いを乗り越えているんだ」と自分に言い聞かせて、ようやく立ち上がる。

その繰り返しだ。ただ、やきもののいいところは、こんな破天荒な人生劇場をたったひとりで演じられるところだ。