ここ以外の場所

ここ以外の場所とは一体どこだろう。ひとが想像できる限りどこであれすべて「ここ」に吸収される。従ってここ以外の場所は、死という他者にほかならない。だがジャン・ケレビッチの言うとおり、すべての死が他者というわけではない。私たちが知っている死は完全な死ではないのだ。だから、ソクラテスはこう言う。私たちの死への恐れは、まだ経験していない自分の死を、他人の死を手掛りにして想像することから起っているにすぎない。私たちは自分の死を知らないのだ。知らないものを恐れる必要はない、と。想像は、多くの場合、現実よりも生々しいものだ。シェイクスピアはそれを『オセロー』で実証して見せた。

ここではないどこか。でも、完全な死でもないどこか。逃水のように「ここ」から絶えず逃げて行く永遠のかなた。ベビー・ユニバースのようにすぐそこにありながら空間を超越した非場所。川向うの岡場所、吉原・・・ちと違うか。

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