『十二夜』その後

セザーリオは仮の姿。実はヴァイオラという女性だ。航海の最中に、難破して双子の兄と離ればなれになって異国の海岸に漂着する。宮廷に仕えるために男装し、セザーリオと名乗っているのだ。
宮仕えをするうちに公爵を恋したうが、宮廷では男と思われているからどうにもならない。その公爵はある姫君に片思いの真っ最中だからなおさらどうにもならない。そんなにっちもさっちもいかない絶望のさなか、当の姫君から恋の告白を受けセザーリオは窮地に。
さあ、どうする!
こうした先の見えないもつれた恋が『十二夜』の魅力なのだが、終幕、一気に解決する。
双子の兄が同じ町にやって来ていたのだ。
ひょんなことから姫君がその兄と会い、セザーリオと勘違いしてプロポーズする。兄には断る理由がない。思いが変らぬうちにと、わがままな姫君は急いで神前で契を誓わせる。
そんなある日、みんなの前で双子が顔を合わせる。
想定される瞬間だ。
それを見て姫君は、あれれ、私が結婚したのは違うひとだったと1秒だけ衝撃を受けるが、Most wonderful(とってもびっくり)の2単語で振り切る。公爵も、そばに仕えていたセザーリオが実は女性であり、さらに、実は自分をこの上なく思ってくれていることを知るに及ぶと、やっぱり1秒だけ考えたのち、あっさり姫君への思いを振り切り、ヴァイオラに求愛する。
セザーリオ君は天下晴れて女になれたのだ。
かくしてめでたく二組の夫婦が誕生。
と、長々とあらすじをかいつまんだが、ここに二つのプラスがある。
双子が生き別れてマイナス一つ。公爵が姫君に片思いでマイナス二つ。セザーリオが公爵に片思いでマイナス三つ。姫君がセザーリオに片思いでマイナス四つ。
ちゃんと筋書きが出来ているのだ。その伏線がさきほどの道化のことば、要するにこれはキスのようなもの、ダメダメダメダメはいいよ、いいよ。
うまく出来てるね。
芝居には始まりがあり終りがある。だから、観客は芝居の成り行きのすべてを自分の目で見届ける。
だが、現実はそうではない。誰にでも始まりは確認できる(もっとも直接ではない)が、誰も終りは知り得ない。運がよければ終る瞬間を意識出来るのかも知れないが、ほとんどの場合終りは神の手に委ねられたままだ。
芝居や映画のやすらぎはそこにある。すべてを知ることができるやすらぎ。現実では決して手にすることの出来ないやすらぎ。
そんな芝居への抵抗なのか、こんなにハッピーな芝居にはふさわしからぬ投げやりな歌で幕切れとなる


A great while ago the world begun,
 With hey, ho, the wind and the rain,
But that's all one, our play is done,
 And we'll strive to please you every day.
(昔この世が始まって、ヘーイ、ホー、風と雨。そんなこた、いいよ、芝居はしまい、わっちら毎日ご機嫌取り)
この歌詞を『十二夜』の幕切れとしてではなく、芝居の余韻抜きに読んでいると、背筋が寒くなるような闇がぽっかり口を開けていることに気付く。



いつもおつき合い下さりありがとうございます。応援よろしくお願いします。
画像をクリックしてランキングサイトが表示されれば投票終了です。


人気ブログランキングへ


にほんブログ村 美術ブログ 陶芸へ