ありがたい太陽
久しぶりにからりと晴れている。にもかかわらず頭はどんよりだ。というのは、ゆうべ見始めた映画が面白くて夜更かししてしまったからだ。
その名は「かもめ食堂」。監督、荻上直子。主演、小林聡美、片桐はいり、もたいまさこ。場所はフィンランド、ヘルシンキ。客がまだひとりも入ったことのない和食の店のグラスを店主の小林がせっせと磨いている。ぶらりとあてのない旅に出た片桐とひょんなことで出会い、店を手伝ってもらうことに……
この映画は「供すること」が主題だ。
日本食を知る人は極めてまれなヘルシンキで和食の店を出し、しかも、おにぎりをメインメニューに据える小林のこだわりは小学生の時、年に二回(遠足と運動会)父親がつくってくれたおにぎりが美味しかった思い出による。
そこに珈琲通の男性が訪れ、美味しい珈琲の淹れ方を伝授してくれる。曰く「珈琲はひとに淹れてもらうのが一番うまい」。いろいろな形で「供すること」が提示される。珈琲や食事だけでなく、宿を貸し、笑顔を振り向け、ことばを掛け、失せものを待つ時間や、哀しみ、そして、喜びを分かち合う。
個人のからに閉じこもったままの日本への警鐘とも受け取れるが、監督はあくまでも控え目である。
がらがらだった食堂がいつの間にか満席となって行く。だが、店主は、日課の合気道の修練と同じく、大袈裟な喜びを表すことはしない。ひたすら淡々と客に「いらっしゃい」の挨拶を掛けつづける……。そうなのだ、ことばを供することが何よりの安らぎの素なのかも知れない。
鮭の切り身を焼くシーンが何度かあるのだが、それがいかにも美味しそうである。今夜は鮭にしよう。