納棺

身内の納棺に立ち会った。
亡くなったとはいえ、今まで寝ていたままのすがたを見ると眠っているひとと見まごう。なきがらはまだ私たちの側にあった。
そして、納棺の儀が行われる。
棺に身を隠した故人はもう決定的にこちらの存在ではなくなっていた。だが、だからこそであろうか、それにつづく通夜の席は、この世にゆらゆらと点る幾多のいのちのかぎろいを出会わせる場ともなった。死者ほど人びとを引き合わせる力を持つ存在はない。まれにしか会うことのない親族をも会わせ、そのまた親族を出会わせ、さらにその友人同士を引き合わせ、新たな縁を組みあげる。なつかしい話に軽やかな笑いさざめきが起こる、故人のお気に入りの音楽が鳴る、先祖の残してくれた写経を手にみなで声を和して読経する、年寄りの声と若者の声がこもごもに協和し、棺のまわりには大いなるいのちの輪がめぐっていた。
多謝。合掌。