いつも初心者

大学で教えるようになってから何年になるのだろう。この約三十年間謂ば知的な(?)その日暮らしをしてきた。それは半分は誇らしいことではあるものの、半分は自分にあきれる程ろくでなしな態度でもある。

大学で教え始める時に自分自身に誓ったことがある。それはルーティンワークをしない、ということだ。しかし、それを反対側から考えれば、過去から引き継いだ手持ちの資料がない、ということでもある。だからいつも自転車操業状態だ。

それは単に教材に留まらない。講義で話したことを、ころりと忘れていて、学生に驚き呆れられる。これは内緒の話だが、時には(あるいは、まれには)いいことも言っている。もちろん自画自賛だから信憑性はかなり低い。

芝居の演出でも同じなようだ。自分は意識していないのだが、昨日言ったことを今日はすっかり忘れて、まったく逆な指示を出して役者やスタッフを困惑させているらしい。だが、みんなやさしい人たちなのでこのような健忘症の人間にはとても寛大だ。

だから進歩や成長というものとは、常にほど遠い。唯一成長したと誇れるのはスキーの技術くらいなものだ。スキーは我ながら(これも自画自賛だから眉唾だが)上手くなった。特に小回り(昔はウェーデルンと呼んでいた)は、滑っていて気持がいい。これで両膝の靱帯が健全ならもっと冒険できるのだが、その辺は神様の深謀遠慮があるらしく、ままならない。

そのようなわけだから、大学教授のブログ(例えば、charisさんや内田樹さん)を読むとしばらくは自己嫌悪に陥る。それでも一日寝るとすっかり忘れて脳天気な日々を繰り返しているという幸せ者だ。