こんな夢を見た

どこか山奥の温泉場で合宿をしている。劇団の仲間が何人かいる。知らない顔も沢山いる。二班に分れて同じ芝居の稽古をしている。相手の班は早起きして屋外で特訓しているが、私の班はみな悠然として周章てる気配がない。

宿の前は胸突き八丁の急坂だ。外に出ると必ずここを登って戻らなければならないので出掛けるのが億劫だ。だから私は終日宿にこもっている。さりとて芝居の稽古をするわけでもなく、気が向くと温泉に入っている。温泉は塩分の強い透明な湯だ。すぐ前には川が流れ、向う岸の小高い岡には鬱蒼とした雑木林が茂っている。

夢を見ながらどこかで見た景色だと思っている。四万か、草津か、沢渡か、しきりにその場所を思い出そうとして、また夢に落ちた。

突然、稽古の成果を発表することになった。一同騒然としている。私は何かを探しに宿中を探し回っている。階段下の女中部屋のような暗がりを探している。だだっ広い、何故か総板張りの宴会場のすみずみも探している。台所の床板をめくって床下まで探している。探し物が何か分らずに探しているので、見つかる訳がない。

柝が鳴った。相手の班の芝居が始まる。うまい芝居ではあるが、どこか芯がない。観ながらやたらとダメを出す。ダメを出しているのに誰も私の方を振り返らない。それが気に入らず、しきりに腹を立てている。だが、実際に声に出したのか、心で思っただけなのか、あやふやだ。

自分の班の番が来た。急な階段が舞台だ。芝居をしながらみな落ちる。ごろごろ落ちて行く。夢十夜の十夜のようだが豚ではない。落ちる先は野天の湯の中だ。落ちた団員はみな能面を付けた頭に手ぬぐいを乗せて、芝居を観ている。階段に残ったのは私一人だけになった。

湯気なのか、霧なのか、あたりがぼやけて何も見えない。湯に落ちたのは実は自分の先祖であり、それを書いたらいい芝居になる、と思っているところで目が覚めた。