清涼飲料水の味

長いあいだ忘れていたが、私が子供のころ夏の飲み物は買うものではなく親が作るものだった。だから名前は知らないが、微かな炭酸(重曹?)の味とほのかな甘みと香りが記憶に残っている。どうやって作るのか皆目見当がつかない。webで調べようとしたが見当違いなものばかりヒットするので途中で断念した。

しかし、いつから飲み物は買うものに変ったのだろう?もちろん昔からカルピスはあったし、サイダーもあった。でもそれはお客さんが来たときくらいしか口に入らない贅沢品だったと思う。

こんなことを書き始めたのは、今度の芝居のイメージはなんだろうと考えているうちにもう50年近く前に飲んだ「清涼飲料水」の味のようなものだと思い至ったからだ。

秋田にある水の町、六郷には「ニテコサイダー」という不思議な名前の飲み物がある。味は少し炭酸を弱めにしたサイダーだったが、その名前に何となく郷愁をそそられ、母親が作ってくれたほとんど味のしない飲み物を思い出す。今となってはそういう手作りの品が却って贅沢そのものになった。

しょうもない懐古趣味と言えばその通りだが、ああいった母親の味はからだの根本に残っているものと見えて、ふとしたことで記憶の表層に甦る。

今度の夏芝居もそんな風に、舞台の上では出来事らしい出来事はほとんど起らないが、誰もがうちに宿しているかすかな郷愁を誘う「清涼飲料水」のようなものになったらと思う。