淡々と

連日稽古が始まったので、舞台の空気は日に日に醸しだされて行く。それにしても「初夏栄村奇譚」は短い芝居だ。今日の通しでは53分だった。やや急ぎすぎの嫌いがあるので本番までにはもう少し緩やかな運びにしたいが大筋は変ることはない。ただ、役者によればこんなに体力を使う芝居も珍しいらしい。冬泉響の舞台は基本的に引っ込みがないから役者はほとんど舞台に出ずっぱりになる。休む暇がないから緊張の糸を張っていることだけでもかなり疲れる。その上、今回はいろいろな踊り(?)や呪文(?)があるから、それで大変なのだろう。特に呪文は言いっ放しなので息を吸う間がほとんどない。辛うじて見つけたことばのすき間で瞬間的に吸い込んでも亜酸欠状態は変らない。でも、舞台そのものが呼吸しているような逼迫感が私は好きだ。

今回は視覚的に訴えるものがあまりないように思う。「地螢」は仮面を使ったり、和服を変化させて身にまとったり、行灯を30個使ったり、と視覚的な要素が多かったが、「初夏栄村奇譚」はむしろ音響パフォーマンスの方に圧倒的な比重が掛けられている。それだからだろうか、まだ稽古の写真を一枚も撮っていないことに今気付いた。

稽古は淡々と進んで行くが、観客が入るまでは誰もどんな舞台が開くのか分らない。窯を開けるまでどんな器が焼き上がっているか分らないように。

窯開きが楽しみだ。