今日のシェイクスピアは『マクベス』


イギリスでは『マクベス』はシェイクスピア悲劇のなかでも人気の高い劇だという。しかし、初めて『マクベス』を読んだとき、なんと陰惨で、不愉快な劇だろうと思った。芝居を見ても、その印象は消えなかった。私のなかで『マクベス』が評価をあげたのは、だいぶあとになって、原文で読んだときだ。確かに内容は陰惨な劇なのだが、その台詞を見ると、いさぎよい残酷さ、ともいうべき独特の味わいがあり、一転してお気に入りの作品になってしまった。『マクベス』の台詞はきびきびとしていて、練達の射手のように狙った的をみごとに射抜く。しかも、その的は、この世と、この世とは思えない世界のあいまいな境界にある。そういう不思議な領域へ、『マクベス』の台詞は案内してくれる。だから、見どころは無数にある。魔女との出会い、夫からの手紙で王への夢をふくらませるマクベス夫人、暗殺直前に現れる短剣の幻、殺害直後、張りつめた空気のなか、突然聞こえる扉を叩く音におびえるマクベス、バンクォーの亡霊がもたらすマクベスの狂乱、夫人の夢遊病、夫人の訃報を受けマクベスが語る絶望のきわみの台詞・・・挙げていればきりがない。そのどれもが、むだのない、ひきしまった文体にまとめ上げられている。

だが、なかでもとりわけ魅力的なのが、短剣の幻をまえにしたマクベスの独白だ。この短剣は目には見えるが、掴もうとしても、掴めない。短剣は、そこにあって、同時に、どこにもない。そこにこの短剣の不気味さがある。マクベスはこの不気味に耐えられず、短剣を、殺戮を行おうとする精神が作り出す影と見なす。にもかかわらず短剣はそこに見えている。マクベスは突如、黙示録的啓示のもとに、世界の果てに向う英雄的恍惚に酔いしれる。だが、王殺しへ向う自分を、マクベスはなぜ、貞節な人妻を犯しにゆくタークィンになぞらえたのか?ここには、世界を支配しようとする者の政治的興奮と、女性を犯そうとする者の性的興奮とが、征服欲を結節点にして、みごとに溶け合っている。奔放なまでに跳躍するイメージの踊り!シェイクスピアの天才がここに脈打っている。




長くなるのでつづきは⇒シェイクスピア全作品解説
覚えておきたいシェイクスピアのことば⇒ジャンル別シェイクスピアの名台詞集


曇天つづきの毎日だが
こいつだけは元気!
f:id:aien:20190706101249j:plain



いつもおつき合い下さりありがとうございます。応援よろしくm(_ _)m
画像をクリックしてランキングサイトが表示されれば投票終了

f:id:aien:20190416065119j:plain



にほんブログ村 美術ブログ 陶芸へ
さらりと脱原発