今日のシェイクスピアは『恋の骨折り損』


名前負けした作品だ。

学問をめざす者が志とはうらはらに恋に落ちるという展開は『ヴェローナの二紳士』のヴァレンタイン、プローチャス、『じゃじゃ馬ならし』のルーチェンシオと同じだ。違うのはこの3人の男性が留学先で恋に落ちるのに対し、『恋の骨折り損』では男性は自国にとどまり、外国からやって来るのは女性たちという点だ。日常を脱した時の高揚感、旅の気分が恋を誘うことはよくあることだが、シェイクスピアはその高揚感を与えるための仕掛けとして、学問を究めるために女性とは会っても口をきいてもいけない、という誓いを男性に立てさせた。もちろん不自然この上ない誓いであることはシェイクスピアも承知の上だったはずだ。人間はしてはいけないと言われるとしたくなくというやっかいな性質をもっている。シェイクスピアはそれをおもしろおかしく扱った。

それにしてもこの作品の論理的左右対称へのこだわりはどうだろう。そこには癒しがたい知的過剰がある。たしかに、自作の恋のソネットをひそかに朗読するのを立ち聞きする場面は舞台の上では効果をあげる。朗読を立ち聞きするひとの独り言を別なひとが立ち聞きし、そのひとの独り言をまた別なひとが立ち聞きし、合計4層の立ち聞きの同心円が作られるさまは劇的というより絵画的なおもしろみがある。しかし、全体としては装飾が勝って内容の乏しい、冷ややかな芝居に終わっている。シェイクスピアの作品だからといって大まじめに読まない方がいい。これはルネサンス博物館の一資料として扱うのがいちばん適切な態度だろう。

この作品はロンドン中がペスト禍に見舞われ、公設劇場が閉鎖されていた時期に、おそらくサウサンプトン伯の邸宅での私的公演を目的として書かれたと推定されることから、一般の観客を対象とせず、貴族趣味を第一に書かれている。そういう意味できわめてルネサンス的作品であり、一般の観客・読者はしばしば仲間はずれにされるため、この作品は1642年から1839年もの間上演される機会に恵まれなかったし、20世紀に入ってから不人気な作品だったが、最近になってようやく舞台でも再評価され始めている。



長くなるのでつづきは⇒シェイクスピア全作品解説
覚えておきたいシェイクスピアのことば⇒ジャンル別シェイクスピアの名台詞集





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